僕の音楽人生における原点となった「サウンドパレット」。
前回の記事で簡単に紹介しましたが、ノートパソコンにつないで、画面にある16段の五線譜に音符を張り付けると、ビーとかプーとかそんな音で、味わい深くメロディを奏でてくれます。
頭の中で鳴った自分が奏でたいメロディを、楽譜として入力すれば、好きな音色で何度も再生できるという面白さ。
もちろん音選びを間違えればそのまま間違えて再生されるので、そこで自分の楽譜の書き方の間違いにも気づけます。
そして自分ひとりが16人分になりきってゴージャスに合奏できる!というのが、当時ラジカセにギター録音という手段しかなかった自分にとって、何より画期的なことでした。
しかし実際は、16段フルに使い切ることはできません。何しろ当時のパソコンの記憶容量や処理能力など、現行機のどうだろう…10万分の1以下ってところでしょうか。
数字ではピンと来ないかも知れませんが、特に当時品を知らない方ほど、実物を目にしたら「何だこれ使えない!」なんて思われるかもしれません。今の感覚でデータを入れていったら、まばたきもしないうちにすぐ天井が見えてしまうでしょう。
(参考)98ノートを起動した時の搭載メモリチェック画面 ※単位に注目!
しかし当時はそれが当たり前だったので、制約とも何とも思わず…というのは大げさですが、限られた容量をどううまく使って、頭の中にある音を表現したらいいだろう?と、工夫をこらす必要があったのです。できるだけ少ない音数で欲しい全体の響きを得る…すなわち「音の引き算をする」ことについて考えるきっかけになりました。
またメロディからコード、ベースやドラムと全てのパートについて、音符をひとつひとつ貼り付けていきますので、ある音符が全体で演奏させた時にぶつかってハモらないだとか、この音域で鳴らすと何となく全体の響きが濁るとか、そういうもろもろを、音符を貼り付けて消して…の繰り返しによって体感できたことも当時の外せない思い出です。
コードを覚えるにあたっても、サウンドパレットは強力なサポーターでした。
僕が本格的に自分で音楽を演奏したくなったきっかけはギターだったので、楽器の練習においては、まずギターのコードを覚えることから始めました。
最初にギターのコードを覚える時は左手のフォーム全体で、これはこのコード、とひとつひとつ押さえ方で覚えていくので、例えばGというコードはこういう押さえ方をするけれど、じゃあ何の音が重なっているのか?というのは最初そこまで意識しません。
つまり楽譜を読めなくても左手の押さえ方さえ覚えれば、コードを鳴らせるということになります。
なのでギターのコードしか勉強しないと、Gコードの押さえ方は分かるけれど何の音が重なっているのか、何故Gはそういう音なのかさえ理解できないことになります。
それが、サウンドパレットを使ってGコードと同じ音を鳴らそうとしたら、Gコードに入っている音をひとつひとつ、マウスで貼ってやらないといけません。いやがおうでも書かれた楽譜とにらめっこしたりして、構成音のひとつひとつを意識します。
また、そもそもどうしてGコードはソとシとレなのか?その法則をちゃんと知ったほうがマウスで貼るにしてももっと簡単にできるじゃないか!…と、音楽の教科書や市販のテキスト、雑誌などで情報を漁るようになり、楽典に踏み込むきっかけにもなりました。
「音の引き算」にせよ「コードの成り立ち」にせよ、深く突き詰めようとすればするほど底無しの話ですから、もちろんサウンドパレットだけ使って全てを身に付けたとか極めたとか、そんなことはありえません。今でも分からないこと、知りたいことだらけです。
しかし間違いなく言えるのは、音楽に興味を持って取り組んだ駆け出しの頃にこのツールと出会えたおかげで、自分の欲しい音を追求することの楽しさを体で学べたということ。
サウンドパレットと出会わなかったら今の僕はない、間違いなくそう断言できます。
今どきNECの98ノートなんていうこれまた骨董品を、それだけの目的で手に入れるというのも難しい話ですが、この記事を書きながら改めて思い出した、かけがえのない当時の体験を胸にしまい、それを誇りにこれからも音楽と付き合い続けたいと思いました。
写真左:後継機「ハイパーサウンドパレット」をPC-9801上で操作中(1995年頃)
写真右:現在保有している初代「サウンドパレット」本体と起動フロッピーディスク